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Vol.11 - 2
2004/01/10発行

酒井 哲郎  新任教授の御挨拶  
 
  形態機能医科学講座 生理学第二分野(旧生理学第二講座)教授 酒井 哲郎
「膜電位の光学測定法とともに」
平成15年4月より寺嶋眞一教授の後任として琉球大学医学部形態機能医科学講座生理学第二分野(旧生理学第二講座)を担当させていただくことになりました酒井哲郎と申します。よろしくお願いします。
 専門は生理学ですが、特に「膜電位の光学的測定法」を用いた研究に従事してきました。この方法は膜電位感受性色素と呼ばれる特殊な色素で生きた細胞を染色し、色素の吸光や蛍光が膜電位に比例して変化する性質を利用して、神経細胞や心筋細胞の電気的活動を電極を用いることなく光学的シグナルとして測定する新しい測定法です。この方法を用いることにより、多数の細胞や部位の電気的活動を同時に測定することや、電極を用いることが困難な脆弱な細胞の電気的活動を測定することが可能となります。
 この特長を用いて、これまで主にニワトリやラットの胚を用いて生理学的機能の個体発生の過程における発現・形成のプロセスの研究をおこなってきました。具体的にはまず、個体発生における心臓の自発性興奮の起源とペースメーカー機能の発現の初期過程の解明を進めてきました。この研究を通して、心拍動が開始する以前の幼弱な心臓においてリズミカルな電気活動がはじめて発現し、不安定なペースメーカー領域が移動しながら安定化していく過程をはじめて明らかすることが出来ました。さらに研究は発生過程にある中枢神経系、特に脳幹の神経核の機能形成の研究へと展開し、幼弱な神経核におけるシナプス活動を光学的に解析するなどの発生神経生物学的研究を進めてきました。これらの研究を通して、「機能の発生学」とも呼べるような新しい研究分野を開拓することができました。これは膜電位の光学的測定法という新しいmethodologyを駆使してはじめて拓くことが可能となった新しい研究の領域です。
 「膜電位の光学的測定法」を軸とした光学計測による生理現象の研究には、まだ多くの発展の可能性が秘められています。最近では、この測定法を成体の心臓に適用して、摘出心房標本を用いた心房性不整脈のモデル実験系を新たに開発する研究もおこなっています。この研究も顕微鏡のステージ上のラット心房標本に頻拍性不整脈をひきおこし、その興奮伝播パターンを光学的に解析するというこれまでにない新しい実験系です。
 今後ともこの方法を発展させながら、ユニークな独自性のある研究を琉球大学から発信していくとともに、独創的な研究を進める若い研究者を育てていきたいと思っています。