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Vol.14 - bP
2006/07/05発行

 生化学の研究は面白い!もちろん講義も? 

形態機能医科学講座生化学分野  山本 秀幸
 
 田中龍夫教授の後任として、本年4月1日付けをもって生化学分野を担当させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願い致します。
 さて、今日は、私が生化学の研究者になった経緯を少し紹介させて頂きます。私は昭和50年に熊本大学医学部に入学しました。私達のころの生化学の講義は代謝が中心でした。試験は口頭試問で、教授が質問した代謝過程を、全て構造式で黒板に書きながら説明するというきびしいものでした。本試験で通る学生は1割以下で、私も、たまたま(本当です!)勉強していなかった代謝過程を書くように命ぜられために、再試を受けることになりました。
 私の父は熊本市内で母と一緒に開業していましたが、学位は生化学の教室で取っており、本当は生化学の教授になりたかったようです。いつも、「お前達を育てるために、仕方なく開業した。」と言っていまして、私が試験に落ちたと聞いて、「お前には、やはり生化学は無理だ。」と、たいそうばかにされました。その父は、私が琉球大学医学部の生化学の教授に決まったのを知って、非常に喜んでくれたのですが、その約一か月後に他界しました。
 さて再試の4か月前から、まじめに勉強をしなおすつもりで生化学の教科書を買いなおしました。ストライヤーの「生化学」とワトソンの「遺伝子の分子生物学」です。この二つを読んでいるうちに生化学は本当に面白いと思うようになりました。特に、一見全く異なるように思われる細胞機能が、共通の化学反応で成り立っていることや、人間のタンパク質を大腸菌で作れることも初めて理解できて興奮したのを思い出します。生化学の再試の口頭試問では、黒板いっぱいにいろいろな構造式を書かされましたが、なんとか通して頂きました。その後、臨床の科目もけっこう真剣に勉強しましたが、病態や薬物治療を理論的に理解するためには、やはり、生化学の教科書を開いていたように思います。
 私が5年の時に、熊本大学医学部の生化学教室で助教授をされていた宮本英七先生が第一薬理学教室の教授に就任されました。私は、夏休みから教室での勉強会に加えて頂きました。卒業の時は、臨床の教室の先生方にも相談しましたが、結局、大学院生として第一薬理学教室に入りました。それから約25年間、主に神経細胞機能におけるタンパク質リン酸化反応の生化学的研究をやりながらあっというまにすごしてきたような気がします。
 さて、琉球大学に来て、あらためて当時の生化学の教科書を開いてみますと、まず黒板に書かされたあの難しい構造式が目に入ってきます。もちろん、生化学では、膨大な化学反応を根気良く正確に理解していくことも大事ですが、 限られた講義時間をもっと重要なことに使わなければいけないのではと考えています。生化学は、ダイナミックな生命現象の分子基盤を理解する学問であること、病態や薬物治療とも関係しており臨床と直結する重要な学問であること、そしてさらに、実験して真実がわかったときには身震いするような感動をあじわえることなどなどです。これらのことを、いかにしたら伝えられるかを模索しながら、充実した琉球大学での生活を送りたいと思っています。まだまだ不勉強で不満に思われることも多いとは思いますが、同窓会会員の先生方からのあたたかいご指導、ご鞭撻をどうぞよろしくお願い致します。